レッスンに来られるクライアントさんの中にも、結構な割合で「全く裏声が出ない」とか「生まれてこの方、裏声というものを意識して出した記憶がほとんどない」といった方がいらっしゃいます。
そういった方々が一般的なボイトレスクールなどに行ってレッスンを受けて「まずは裏声を出して声帯のストレッチをしましょう♪」なんて言われても「いや・・・裏声とか出せないんですけど・・・?」となってしまい、ほとんどの練習メニューがそもそもできない、そして残りの時間を中途半端な歌唱指導をされて終わってしまうというのがほとんどです。
なので今回はそもそも全く裏声が出せないといった方に私がレッスンで処方する練習方法の中のいくつかを紹介します。
大前提その1:『裏声が出ない』にも原因は山ほどある
このブログでは毎回同じようなことを書いていますが、今回のような「裏声が出ない」という症状、文言だけだと問題は「裏声が出ない」という1つだけなんですが、実際にその原因となる要素は全然一つではないということです。
裏声を出すための筋肉・パーツが全く動かないから『裏声が出ない』ということもありえるし、裏声を出すための筋肉・パーツよりも大きい割合で他の筋肉・パーツが動いてしまうから『裏声が出ない』という場合もあります。
もちろん上記のような状態以外にも山程原因はありますし、複数の要因が複雑に絡んで『裏声が出ない』状態になってしまっていることもよくあります。
なのでレッスンを受講しているのであれば大まかな原因はアナウンスされているでしょうから、それに従い練習を進めれば基本的には問題ないはずです。
他方で独学の場合は『裏声が出ない』その原因を何となくでもいいので予想し、できれば幅広く多くの練習方法を試すという方向性じゃないと、1つの練習方法だけをやり続けても、それが原因と全く関係のない部分に作用するものだった場合、効果は全くでないでしょうし、下手すると余計な癖・固着になってしまう可能性があるため、注意して練習を進めていく必要があります。
大前提その2:『一般的なボイトレ』では大抵改善しない
記事冒頭に書いたような「全く裏声が出せない」とか「これまで裏声を出した記憶がほぼない」といった状態の場合、いわゆる『一般的なボイトレ』で紹介されるような練習方法では大抵改善しません。というかその練習方法が全く再現できないし、それができるイメージもできないはずです。
一般的な裏声を探るボイトレ方法
- イメージ・感覚で探る方法
「高い位置から出すように」「頭のてっぺんから出すように」等など - リップロールやタングトリルで探る方法
ハミングやストロー発声などもここに含まれる - 地声を張り上げていって最終的に裏返す方法
地声との差異で裏声を探る等など
恐らく本当に全く裏声が出ないというレベルの方だと、上記のような方法はそもそもできないし、できる想像すらできないでしょう。
なので以前にも記事にしたように、ボイトレとも呼べないような、普段出している声から少ーしだけ変えたくらいの状態から探る必要があると思います。
私の経験上、裏声が全く出せない・ほぼ出せないというレベルからボイストレーニングを始めた方で、一般的なボイトレ方をなんとか再現しようと躍起になって練習を続けそのまま上手く発声訓練が進んだ方を見たことがありません。時間はかかりますが順調に進むのは本当に超ベイビーステップで徐々に様々な声を探っていった方だけです。
裏声の探り方
上で紹介した記事でも書いていますが、本当に全く初めての声を探る場合、突発的に今まで出したこともない声がでるようになるというのは確率的にめちゃくちゃ低いです。
なので今現在出せている声から状態を少しずつ変えて、これまでとは違う筋肉の動きや、動いていなかったパーツの加入を促していくしかありません。
- 喉頭(喉仏)をただ下げる
- ささやき声・ひそひそ声を出す
- ため息をつく
- 歯擦音を出す
私がレッスンで「裏声が全く出ない」というクライアントさんに試してもらう練習方法をいくつか挙げてみました、少し詳しく解説していきます。
喉頭(喉仏)をただただ下げる
基本的に裏声を出すには声帯を薄く引き伸ばしたいわけですが、それをサポートしてくれるのが喉頭を下げる筋肉・動きです。
なので裏声は喉頭を下げる筋肉・動作と仲良しなので、裏声を直接探るのではなく、まずは裏声と仲の良い筋肉を動かすことができるかどうか?ということです。
『裏声を出す』というのは、現代社会では生きていく上で絶対に必要というわけではなくなってしまったため『全然出したことがない』ということもありえますが、喉頭を下げる動きというのは主に呼吸動作に関わっているため『それだけを意識して』したことはなくとも、生命活動の中で絶対にやったことのある動きです。
なのでまずは声を出さずに喉頭を下げてみましょう。それがスムーズにできたら、喉頭を下げながら何か声を発してみてください。
この時、声を出した瞬間に喉頭の位置がガクッと上がるようであれば、まずは声を出さずに喉頭の位置を変えるというが動きスムーズにできるようになりましょう。
ささやき声・ひそひそ声を出す
単純に『めちゃくちゃ小さい声で喋ってみましょう』という練習です。
この練習方法の場合も、小さい声を出すということが直接『裏声になる』というわけではないのですが、声を小さくするには地声系の筋肉の動き・強度を緩める必要があるため、間接的に裏声っぽい状態になりやすいということになります。
また発声時の『明確な地声じゃない』という感覚が後に裏声を探る際にヒントになってくれたりするので、レッスンでもこの練習から裏声が芽を出す方も多いです。
ため息をつく
これも『ささやき声・ひそひそ声を出す』とほぼ同じような状態になるのですが、こちらは息を多く吐くというのが地声系の筋肉の動きを抑制する要素になっています。
ただこのため息はやり方が重要で、ただただでかい声で「あぁ~~あ!」みたいな感じの嫌味なため息をしてしまうと結構逆効果になったりするので、しょんぼり落ち込んだ感じでやるのがベターです。
歯擦音を出す
歯擦音というのは超シンプルに説明するとサ行を発音するときに音の出だしに舌と歯の間を息が通過し鳴る音のことです。
いわゆる静かにしてって言うときの「シーッ🤫」ですね。これも息を使い、地声の動きを抑制してくれるので裏声の発見に役立つことがあります。
これもため息同様、でっかい音でやろうとするとあまり効果がなかったり、裏声を探るという目的にはそぐわないので、なるべく優しく、そして少し長め(3秒以上)に出せるとより良いです。
どの練習も出し慣れた音域で行いましょう
4つほど裏声を探る方法を紹介しましたが、そのどれもが音域の指定をしていない、もしくは普段の喋り声の延長の音域で行う練習だということに気づきましたでしょうか?
これも上で書いたように、全く何の手がかりもない状態から裏声を探る場合、いきなり高い音を鳴らそうとすると大抵はこれまでよく使ってきた喉の筋肉達を総動員して無理やり音高だけ届かそうと過緊張な発声になってしまうため、まずは慣れ親しんだ音域から徐々に声帯を裏声的な使い方にしていくためです。
ここで紹介したような練習が喋り声や低めの音域で難なく鳴らせるようになってきたら、少しずつ音高を上げていきましょう。
本当に少しずつです。いきなり高い音で練習しようとすると絶対に地声的な喉の動きが強くなるため、なるべく裏声的な喉の使い方のまま音高を上げるという動作に慣れていきましょう。
まとめ:ここまでやって裏声が見つからない場合はお早めにレッスンを受講してください
今回紹介した練習を毎日合計20分以上、それをひと月くらい続けても、全く裏声の出し方がわからない、想像も付かないという場合は独学で喉の状態を好転させるのは難しそうなので、信頼できそうなボイストレーナーのレッスンを受講することをおすすめします。
またここで紹介した練習方法で高い音域まで出せるようになったとしても、それは『裏声』が出せるようになったわけではありません。
今回はとりあえず「慣れ親しんだ喉や声帯の使い方から少しでも離れてみよう」くらいの練習強度です。なので『裏声が出せる』『裏声で訓練できるようになった』わけでは全くありません。
今回の練習で裏声を探る状態ができて、地声とは違う声帯を薄くする動作ができたら、これまでブログで紹介したような様々な強度調整をした裏声を訓練していきます。
今回のような段階であっても、間違った方法で長時間の練習を続けると地声でも裏声でもない、中途半端な喉の使い方で固着を引き起こすこともよくあるため、少しでも悩んだり、心配であればぜひトレーナーのレッスンを受けてみてください。
この記事を参考にした上で練習していただいているのであれば、私のレッスンを受講していただければより詳細なアドバイスができます。