声区融合(ミックスボイス)の練習だけをしていても、声区融合は実現できないということがそこそこ知られるようになってきたここ数年で、メールでのお問い合わせや初回レッスンで一番多くされる質問が今回の記事のテーマでもある『どれくらい地声と裏声を鍛えたらミックスボイスが出せるようになるの?』ということです。
私は基本的にはこういった考え方はあまりせず、地声も裏声も毎日少しずつ練習して、同時に融合系の練習もやっていれば徐々に融合した発声状態での自在性が高まっていくものなので、あまり各声区で「◯◯ができたら」という考え方はありません。
しかし多くの人は基準や指標が知りたいようなので、今回は私が考えた声区融合ができる、融合の訓練に耐えられる地声と裏声のレベルや基準について、そしてその調べ方を解説していきます。
声区融合(ミックスボイス)で重要な各声区の要素
- 音域
- 効率
- 音色
あれこれと基準を設けてもいいのですが、解説するのも大変になるので、とりあえず色々な要素を包含しやすい項目にしてみましょう。
この3つの項目のレベル・練度が高ければ高いほど声区融合しやすかったり、より強固な融合状態にできるとお考えいただいてOKです。
上記の3つは重要度の高いもの順になっていますが、1つ目の音域と2つ目の効率はどちらも同じくらい高いレベルでなければいけない、そしてどちらも影響しあっている項目なので、ほぼ同率です。次から参考音源も併せて一つずつ解説していきます。
各声区の基準:音域
- 地声
- 最低でもE4までのフルボイス(充実した音量・音圧を保った状態)で発声できる
- 裏声
- 最低でもC4を安定して発声できる
上記のような基準を明確な地声と裏声の状態で出し分けつつ、各音高まで発声できるかどうかが重要です。当たり前に混合している声区の状態で上記の音域を出せたとしても意味がありません。
地声は最低でもE4は完全に地声系(声帯を縮める/閉じる)の筋肉が主体・優勢の状態で鳴らせるかどうか、裏声は最低でもC4は裏声系(声帯を伸ばす/開く)の筋肉が優勢・主体の状態で鳴らせるかどうかがポイントになります。
また上記の通り「最低でも」です。当たり前に地声・裏声共にそれぞれの筋群が優勢の状態を維持できるのであれば、より幅広い音域で発声できる方が良いです。
この記事では基準として設けているだけなので、上記のような音域付近だけで練習するのもオススメしません。絶対に発声状態に偏りが生じるので、できるだけ広い音域で練習しましょう。
各声区の基準:効率
- 持続時間
- 安定して長く発声できるか
- 音量
- 適切に小さく/大きくできるか
- 動き
- ストレート/ビブラート/こぶし等が自在に付けられるか
持続時間は特に裏声の低音域で重要です。低い音高の裏声はファルセットになりやすいので、ある程度の声を伸ばすことができないと怪しいです。
音量は地声の場合、最高音であるE4~F4付近で小さくしか鳴らせないのであれば、声帯をしっかり厚く・閉鎖して使えていない=裏声の機能を借りすぎている可能性がありますし、裏声も前述の通り、低音域ではファルセットにならずに小さい音量で鳴らす必要があるため、正しく声区融合に必要な声区の強化ができているかという観点から非常に重要な要素です。
上記2つの要素を伴った上で、動きが付けられればほぼ完璧です。というか大抵の場合は安定して持続時間を伸ばそうとしたら何かしら声に動きを付けないと難しいはずなので、これは効率的にここで解説した基準を満たそうとした場合にクリアされているはずです。
各声区の基準:音色
- 暗い/深い音色
- 喉頭の位置を下げ/口腔を広く保ったまま発声できるか
- 明るい/鋭い音色
- 喉頭の位置を上げ/口腔を狭くして発声できるか
- 中庸な音色
- 喉頭を極端に動かさず/適切な口腔の広さで発声できるか
この基準に関しては以前に公開した下記の記事も目を通していただければより理解しやすいと思います。

この音色の変化を付けたほうが前の2つの基準をクリアしやすいという喉の状態・バランスも全然ありえますので、前2つが難しい場合はまずはこの音色をあれこれ変えてみて、安定する状態を見つけてから音域/効率に関する項目を試してみてもいいと思います。
声区融合(ミックスボイス)できる基準をクリアしている地声・裏声の参考音源
ここまでに解説した各要素をあれこれ取り入れた状態の地声と裏声を発声してみました。
この参考音源では喉頭の位置は極端に上がり下がりしていない中庸な音色ですが、これも前述の通り暗くしたり明るくして変えてみたり、音量もより大きく/小さく出したり、コブシ的な大きな動きを付けたりストレートで発声してみたり、母音を変えてみたり子音を付けてみたりと、組み合わせは山程ありますが、ある程度どういった状態でも対応できる喉の状態になっていればOKです。
あくまでも一例なだけなので、この参考音源と同じように発声できたからといって声区融合ができる基準クリアだ!とは考えないでください。上記の通り、これよりももっと色々な状態で各声区の声をだせるようにする必要があります。
そうして基準がクリアできた各声区の声で遊べるような状態であれば、何度かこのブログでは書いているようにあれこれ考えなくとも声区融合(ミックスボイス)の取っ掛かりを掴めているはずです。
変化を付けられない状態の地声・裏声しか出せないという場合、それが訓練初期であれば問題ありませんが、ある程度の期間、訓練した結果なのであれば、そもそも声区を分離した上で強化するという超基本的なルールが守られていない状態で練習してしまっている可能性が高いです。
その時は潔くボイストレーナーのレッスンを受けてみてください、恐らく改善できるポイントが山程明確になるはずです。
まとめ:あくまでも簡易的な基準です
ひとまず分かりやすい基準として解説しましたが、当たり前にここで解説した以外にも声区融合に関して重要な要素はたくさんあります。
なので「この記事に書いてあることは全部クリアできているのにミックスボイス出せない!なぜだ!」とは思わないでください。
ただ本当にこの記事に書いてあることが全てクリアできているのであれば絶対にミックスボイスっぽい発声や状態はできます。
どれだけ練習しても想像もできないといった状態なのであれば、かなり喉がこんがらがっている状態なので、早めにレッスンにお越しください。