母音の変化となって現れるいろいろな響きが操作できるようになると、それはもう、声帯の不随意筋を直接コントロールする術を習得したのと同じことです。
コーネリウス・L. リード ベル・カント唱法 その原理と実践
私が研究・実践しているメソッドのメインである、コーネリウス・リードがベルカントのメソッドに関して書かれた本には、母音に関する記述が数多くあります。伝えたいであろうことは上記の通り「どういう音質の母音を作れるかが重要である」ということです。
人が発声する上で意識的にコントロールできて、なおかつ声そのものを形成する要素が母音です。なのでこの母音を適切に調節できるようになれば、発声に関する多くの問題が解決されるということです。
以前に書いたボイストレーニングで広げた音域を歌唱に活かすには?という記事で、母音だけでメロディーを歌うという練習方法を解説しましたが、この記事ではその前段階の練習を解説します。
母音の純化という訓練方法で、5つある母音を滑らかに、母音の形成に関わるパーツが適切に仕事している状態を作れるかどうかという練習です。
パターン1. 出しやすい母音同士を繋げる
最終的には一息で5つの母音を滑らかに繋げて発声したいのですが、様々な要因によっていきなりそうするのは難しいので、まずは母音の特性が近いもの同士で繋げてみましょう。
また今回解説している母音の純化を練習は
- ウ→オ→ア→エ→イ
- イ→エ→ア→オ→ウ
これら母音の並びのどちらかで行います。
この順番はそれぞれ母音同士が繋がりやすい並びになっています。また1は比較的テンションが緩く、喉頭も下がりやすいウから始まるので、裏声傾向で純化させるときにはこの並びで練習します。
逆に2はイという少しトリッキーな母音から始まり、エ→アと続くため、喉頭が上がりやすく、地声傾向になりやすいため、最初のうちは裏声でこの並びの純化は難しい人が多いかもしれません。
今回この記事では間違いにくい1の並びでの練習方法を解説します。なのでまずパターン1として出しやすい母音同士を繋げるので『ウ→オ→ア→エ→イ』この並びで出しやすいと感じる母音から始めて、その一つ右隣の母音にグラデーションさせるように移行してみましょう。
『ウ→オ』の並びを裏声(F4)でデモンストレーションしてみました。こんな感じになります、いかがでしょう真似できますか?
この記事では基本的にとっかかりを得るための練習として解説しているので「変わ・・・ってるか?」くらいの変化でいいです。
- 母音と母音の間を曖昧にしてグラデーションさせる
- 音高を維持する(母音によって音高が変わらないように)
- 基本的に音域は自由(換声点付近から上で行うのがオススメ)
この練習に関するルールは上記の通りです。これらのルールを守ってさえいれば、どういった音量・音色でやってもいいです。
NGパターン
このように途切れてしまったり、母音が急激に変わってしまったら、この練習の場合はNGです。
パターン2. 出しやすい母音同士を動きをつけて繋げる
音数はパターン1のまま、一息の中で動き(ビブラートやコブシ)をつけて繋げてみましょう。もしかしたらパターン1よりもこっちの方が安定してやりやすいという方もいるかもしれません。
このパターン2もNGはパターン1と同じです。途切れたり、母音がいきなり変わってしまったりしないようにしましょう。
またこちらは動きも付けているので、母音を変えていく中で動きが変わったり止まったりしてもNGです。常に同じ動きの中で母音が徐々に変化させられるように練習してみてください。
パターン3. 5つの母音を動きをつけて繋げる
最後は5つの母音すべてを繋げてみましょう。
当たり前ですが、いきなりこのパターン3のように母音を5つにすると難しい(息が続かない/崩れやすい母音がある)場合は、まずは母音を3つに、慣れてきたら増やして~と一つずつ増やしてください。ここで紹介しているのは最終的に5つの母音でできればいいねってだけです。
まとめ:いろいろな練習に応用できます
母音を変えるということが発声訓練の中で選択肢としてできてくると、今回解説した母音の純化だけではなく、様々な練習に応用することができます。
これまでにやっていた練習の母音を変えてみたり、徐々に母音を変えるという動作を組み合わせると、練習の幅は大きく広がります。
またこの記事では母音の順番を2つ紹介していますが、もちろんランダムな順番で母音を変えるのも、訓練としては非常に効果的ですし、母音をより明瞭に変化させたり、音域も音色も様々な状態でできればより良いです。
そしてこの訓練がこなせないと声区融合にとってもっとも重要なメッサ・ディ・ヴォーチェもまともにできないので、ぜひたくさん練習して、苦手な母音や順番がないようになりましょう。