疑問・質問フォームに来た質問への回答記事です。質問の本文はこちら↓
- 20歳男性です
ボイトレをしてミックスボイスらしきもの(D4以上で地声の響きが感じられる)は多少出せるようになったと思っています。が、その喉の形のまま、裏声成分を抜いて音を下げていくと、完全に地声になるあたりでD4→C4→D3とガクっと下がってしまいます。どうやったら音階どおりに下げていくことができますか?
あまりにも情報が少ないので、めちゃくちゃ推測した上での回答になります。
レッスンをしていると「独学でミックスボイスっぽいものは出るようになったけど、高音域よりも低音域が安定しない/地声にひっくり返ってしまう」というご相談を受けることはよくあります。
ということで今回はできる範囲で質問に回答しつつ、ミックスボイスの訓練をしている際によく起こりがちな低音域での悩みに関して解説していきます。
質問文を大雑把にまとめると
質問文からは細かく読み取れない部分が多いので、質問の意図を読み違えている可能性も高いですが、恐らく
- ミックスボイスらしき発声のまま、徐々に地声的な要素を入れつつ音高を下げようとすると、D4付近から一気にD3付近まで落ちる、つまり地声にひっくり返ってしまう
といった状態でしょうか?
ミックスボイスの低音域が安定しない原因
今回の質問者さんのように、高い音域(F4付近~C5付近)だとミックスボイス、つまり明確な裏声っぽい音色ではない状態で高音域を発声できているのに、そこから徐々に下降し中低音域(喚声点付近より下)になると
- 発声が安定しなくなる
- 声の動きが制御できない(勝手に震える)、息が続かなくなる等
- 音色が狙い通りにならない
- 地声っぽく/裏声っぽく出したいのにできない、音量の操作が効かない
- ひっくり返りが起こってしまう
- 換声点付近の音域を出そうとすると、一気に地声になるか、ファルセットのように息が漏れた声になる
上記のような状態になってしまうというお悩みは、冒頭にも書きましたが、発声訓練の初期~中期にはよく起こりがちだったりします。
今回の質問者さんの場合、
- その喉の形のまま
- 裏声成分を抜いて音を下げていく
- 完全に地声になるあたりで
- D4→C4→D3とガクっと下がって
と書いておられるので、質問者さんのミックスボイスの状態は裏声的な声帯振動のパターンがメインになっていて、換声点付近(D4~F4辺り)から徐々に地声的な声帯振動のパターンにしようとしているんだけど、一気に声帯を分厚くしてしまい音高が落ちてしまうということでしょう。
めちゃくちゃシンプル書くと「換声点だから難しいよね」ってことになります笑
ただ、もちろん換声点付近での振る舞いは非常に難しいですが、今回の質問者さんの場合、クリティカルに振動パターンを上手く移行できない原因になってそうなのは、質問文にも書いてある、上手く地声への橋渡しをしようとして行っている
- その喉の形のまま
- 裏声成分を抜いて音を下げていく
これら2つの要因だと思います。
ミックスボイスには声道調整も大きく関わる
ミックスボイスは声帯の振動パターンに関わる調整、つまり声帯を閉じたり縮めたり、伸ばしたり開いたりするという筋肉の動き・操作だけではなく、どのような声道形状にして共鳴させるか?という音響特性も大きく影響してきます。
この辺りは解説しようとするとめちゃくちゃ煩雑になるし、質問者さんの声の状態もわからないため、今回は詳しくは書きません。
ただシンプルにミックスボイスを出そうとしている「その喉の形のまま」というのは音響特性的に低音域を鳴らすのに向いていない/不向きなため、換声点付近から狙っている音高に対して出力不足になってしまい、一気に音高が落ちてしまっている可能性が高いです。
常にグラデーションしている意識
もう1つの要因として考えられるのは「裏声成分を抜いて音を下げていく」ということを意識する/し始める音域・タイミングがよろしくないということです。
この裏声成分を抜いて音を下げていく、つまり徐々に地声に戻していくというのを、質問文をそのまま受け取ると
完全に地声になるあたりでD4→C4→D3とガクっと下がって
と書いてあるため、少なくともD4になるともう完全に地声になっている/地声にしようとしているということになります。
しかし前述の通り換声点、つまり不随意的な声帯振動の変調が起こるのはD4~F4辺りなので、この付近の高さで明確な地声/裏声にしようとするのはミックスボイスで発声しようとしているのであれば間違っています。
ミックスボイスの中低音域での不安定さを改善する方法
ここまでに解説した中低音域でミックスボイスが不安定になるであろう原因に対して、それらを改善するポイントと練習方法をいくつかご紹介します。
『状態は常に変化している』という意識
特定の音域や音高(特に換声点付近)で
- 地声/裏声っぽくする
- 息を多くする/少なくする
- 声量を大きくする/小さくする
といった変化をさせようとすると、基本的にはミックスボイスは安定しにくいです。そうではなく、常に、半音(ピアノの鍵盤1つ)単位で状態は変わっているという意識が重要になります。
換声点付近で声帯も声道も調節が難しくなることがわかっているのであれば、そこに向かっている場合、それよりももっと手前の音域から準備をする必要があるということです。
具体的な声帯と声道の調節
今回の質問者さんの場合、換声点付近で裏声的な要素を抜いて、つまり地声に戻そうとすると一気に1オクターブ下まで下がってしまうということなので、考えられるのは
- 急激に地声的な声帯振動のパターンにしてしまい、一気に音高が下がってしまう
- 『裏声成分を抜いて』というのが実は地声成分まで抜いてしまっていて、そもそも声帯が空気を受け止められる状態ではなくなり、地声として発声しやすい音域まで墜落している
という2パターンが考えられます。
しかし原因として考えられる方向性は真逆ですが、重要なのはどちらのパターンでも換声点付近は狙った状態で発声できていないということなので、とりあえずはこの音域をミックスボイスで発声できるようにしてあげる必要があります。
原因が1だと考えられる場合
「裏声成分を抜く」「地声成分を戻す」と意識するのを、もっと高い音域から始めましょう。
その上で、換声点付近を発声する際に、“徐々に”開いた母音(アやエに寄せる/顎を落として口を開く)にするということを意識して発声してみましょう。
また今回の質問者さんとは逆に低音域から換声点に向かって上昇しようとすると一気に高音域までひっくり返ってワープしてしまう場合は、徐々に閉じた母音(ウやオに寄せる/唇を噤んで少し突き出す)を意識してみると、上手く踏ん張れるかもしれません。
何度も書いていますが、いきなり特定の音高から上記のような母音調整を始めたり意識しないように、安定して発声できている音高から徐々に行いましょう。
原因が2だと考えられる場合
こちらの場合であっても1の方法のように母音の調整をすることで上手く声帯が振動してくれる可能性もありますが、どう頑張っても換声点付近がすっぽ抜けるという癖/固着になってしまっている場合は、そもそも調整する母音を発音できないという状態かもしれません。
この場合はひとまずどの音域でも声帯を振動させられるようにしてあげる必要があります。そんなときに便利なのがSOVT系の練習方法です。

この↑記事にあるリップバブル(リップロール)やタングトリルの他にもストローを加えた状態で発声するのもSOVT系の練習方法です。
SOVTの状態で換声点付近を上下から通過するように行き来できるように練習してみてください。ちなみにこのSOVTの状態で上手く発声できないのであれば、通常の発音で上手く発声するのはまず無理なので、ひとまずはこの状態でスムーズに発声できるようにするのがオススメです。
まとめ:シビアな音域なので根気強く練習しましょう
高音域でも思い通りの音色で歌いたい!と思ってミックスボイスの練習を始めたけど、それよりも意外と中低音域の振る舞い方がわからない・難しいというのは非常に多いあるあるです。
そしてそれを解決するのは、何か革新的な方法ではなく、繰り返しによる地道な改善しかありません。
より具体的な改善方法や現状把握をしたい場合はぜひレッスンにお越しください!
参考文献
Ingo R.Titze ; 田山二朗. 今泉敏. 山口宏也訳. (2003). 音声生成の科学:発声とその障害. 医歯薬出版.
Roubeau B. Henrich N. Castellengo M. (2008). Laryngeal Vibratory Mechanisms: The Notion of Vocal Register Revisited. Journal of Voice, 23(4), 425–438.
Henrich N. d’Alessandro C.Doval B. Castellengo M. (2005). Glottal open quotient in singing: Measurements and correlation with laryngeal mechanisms, vocal intensity, and fundamental frequency Journal of the Acoustical Society of America, 117(3), 1417–1430.
Guzman M. Rubin A. Muñoz D. Jackson-Menaldi C. (2013). Changes in Glottal Contact Quotient During Resonance Tube Phonation and Phonation With Vibrato. Journal of Voice, 27, 305–311.

