一昔前まではボイストレーニングといえば「腹から声出せ!」というのが定番でしたが、最近はそんな指導をするのはめっきり見なくなりました。
頭から~とか、目を見開いて目からビームのように~とか、そういう指導しかされない時代が確かにありました。ボイストレーニングや発声指導が非常に混沌としていた時代でした笑
ただこういった指導方法は悪なのか?と聞かれると私は「全くそんなことはないです」と答えます。
めちゃくちゃ抽象的で、わからない人には全くわからない、理解して実践できる人はいるけれど、そういう人はめちゃくちゃ少ないという、人を選びまくる指導方法ですが、それにも意味はあります。
「前時代的な指導は意味がない!」本当にそうか?
「声は喉で生成され口から発せられる!お腹から声なんて出ない!そんな指導は意味がない!」なんて宣っているトレーナーも最近では多くいらっしゃいますが、冒頭に書いたように私自身もそういう意見に同意する部分はありますが「そういう指導が刺さる場合も多くある」とも考えていますし、そういう抽象的な指導の方が発声に関わる問題の解決が早い場合が結構多くあります。
重要なのは抽象的な指導方法が、本当に全く言葉の通りの意味で使われてきたのか?ということです。
つまり抽象的な指導をしていた指導者たちが、本当に言葉のまま「お腹から声が出ている」と考えて「お腹から声を出して!」と指導していたのか?というのがポイントです。
恐らくその指導者たちもお腹から声がでているような感じはしていたかもしれませんが、本当にお腹から声が出ている!とは思っていなかったはずです。
つまり「お腹から声を出すような感じで、その辺りを意識して発声してみて!」ということを「腹から声出せ!」に重要な部分を短縮して指導していたということです。
この重要な部分を短縮してしまったという部分が良くないだけで「お腹から声を出すような感じで」という指導自体には罪はありません。
一辺倒な指導は良くないというだけ
今も昔も、指導方法として効果的でないのがどんな状態に対しても指導が一辺倒な場合です。
「お腹から声出して!」という指導自体は悪くありませんが、それがどんな喉や発声状態の人に対しても処方されているようであればそれは非常に問題があります。
もしかしたら「お腹から声を出して!」と指導していたトレーナーの多くが、この文言オンリーでの指導をしていたのかもしれません。その影響で文言自体が問題視された、というような経緯かもしれません。
ある人には非常に効果的な指導であったとしても、それが他の人にも適応されるかは全くの別問題であり、万人に効果がある魔法のような練習方法などボイストレーニングにはありません。
なのでどんな悩みにも、状態にも、同じ指導しかされないという場合は、恐らく成長は見込めないでしょうからセカンドオピニオンを受けることをオススメします。
他方で、指導方法自体は前時代的だけど、その時の悩みや状態によってしっかり内容が考慮されていて、その指導自体が全く想像も付かないというものでなければ大きな問題はないと思います。
抽象的な指導に隠された狙い
「お腹から声出して!」という超抽象的で、実際にはそんなわけない指導ですが、この言葉の裏にどういう意図でこの文言が生まれそれを指導されたのか?というのを考えるのも重要です。
恐らく「お腹から声出して」と指導された人の多くは、トレーナーが狙っている発声よりも諸々の強度が低いため、とりあえず手っ取り早く発声する際の強度を高めるために「お腹に力を入れて、身体の内圧を高めて、お腹から声出すように発声して!」と伝えられるのだと思います。
「なんで指導される方がその内容の真意を汲み取らないといけないんだよ!」と思うかもしれませんね、本当に心苦しく申し訳なく思うのですが、ぜひ協力してやってください笑
何も考えずに言葉通りにやってみたほうが上手くいく場合も多くありますが、全く想像もできず意味がわからない指導の場合、自分の中の感覚や操作に当てはめてみて試行錯誤するほうが意味のある指導やレッスンになると思います。
まとめ:どんな指導方法にも意味がある
最近ではあまり聞かなくなった指導方法もたくさんありますが、それが生まれたのはその指導で上手くいった人が確実に一人以上はいたからです。
科学的に見た時に全く正しくない、多くの間違いを含んでいる文言であっても、それを意識することで好転した人がいたから今日まで語り継がれているわけで、悪影響しかないような指導方法やそれに関わる文言はほとんどないと思います。
私自身の経験としても、過去に指導された内容や言葉に関して、当時は全く意味もわからず「何を言っているんだこの先生は・・・?」と思うことは多々ありましたが、長くボイストレーニングに携わっていると「あの時の指導・言葉はこのことやったか~」となることがよくよくあります。
その時々に必要な指導・練習かどうかを常に意識し、その内容・文言に関しては各々が試行錯誤しながら汲み取っていきましょう、というお話でした。