去年の今頃の時期からレッスンに来られているSさんという方との実際にあったレッスンケースをご紹介しようと思います。
このSさん、声の不調としてはこのブログで紹介するのは珍しく『声を出さなくなってから段々と声が出しづらくなってきた』という症状でした。
そしてそんな中このブログを見て声について詳しそうだということでレッスンをお申し込み頂きました。
もしかしたらこのブログを読んで頂いている方の中にも同じような症状で悩んでいる方がいるかもしれないので、少しご紹介して見ようと思います。
※ブログ記事にすることはSさんにご了承頂いています、Sさんご協力ありがとうございます!
Sさんの声の不調とそれが起きた時期
声を使わなくなった時期から不調が出始める
転職で業種が変わり、今まで仕事で一日中声を使っている環境からほぼ喋らなくても良い職業に転職された頃から不調が出始めたそうです。
以前の職種だと勤め始めは今回のケースとは逆に「声を出しすぎて1日の終わりには声が掠れてしまう」というまぁよくあるパターンの不調も出ていたそうですが、それも数年経てば慣れてなくなったようです。
つまり声を酷使していた時は問題なく、ほぼ喋らなくてよくなってから不調になりだしたということです。その不調とは
- 喋り声が小さくなった(人によく聞き返されるようになった)
- カラオケに行って歌っても思いの外声が出ていないように感じる
- 寝起きで声を出そうとすると息が漏れて声が上手く出ない
等などそれまで比べると明らかに声に不調が多くなってしまったようです。
これらの症状を聞いた時に私は頭のなかに浮かんだワードがあります。『声帯萎縮』です。
声を使わないと起こる『声帯萎縮』とは?
声を出していないと「声帯が痩せてしまう」という症状
よく現役を引退した学校教師や幼稚園の先生などが発症する事が多いようです。つまりずっと声を多く使ってきた人がある期間から使わなくなると声がやせ細ってしまい声に力が入らなくなります。
声帯も身体の組織の一部なので、それまでしっかり使っていたのにいきなり使わなくなるとやっぱり痩せちゃうんですね。身体の他の筋肉も同じです。
このブログでも声を使いすぎたり無理な使い方をして不調になったり傷が出来たりという話は何度か書いているんですが「使ってないから不調になる」という声帯のいろんな病症の中では珍しいパターンです。
Sさんの症状もこの『声帯萎縮』だったのか?
私自身何度か正式に耳鼻咽喉科で『声帯萎縮』だと診断された方の声を聞いたことがありますが、Sさんの声は実際の『声帯萎縮』の方と比べるとまだ声が出ている方だと感じました。
声帯萎縮の方ってしっかり声が出ていた時と比べるとかなりはっきり声が掠れるので、明らかに「おかしい」と感じて病院に行く方が多いです。
それに比べてSさんの声はたしかに出しづらそうではありますがまだ『声帯萎縮』といえるほど声が衰えているように聞こえませんでした。
そして現在までしっかりレッスンを受けて頂いて声はほぼ戻っているのを考えると恐らく『声帯萎縮の手前』の状態だったのではないかと思います。
最近結構多い『声帯萎縮の手前』
あまりに声を出してないと声帯が痩せかけている事も
耳鼻咽喉科の先生のお話だと最近PCを使っての仕事が増えてきたりスマホでのコミュニケーションが多くなってきた影響か、会社でも学校でも「声を出す」という機会が減ってきているようでこの『声帯萎縮の手前』の症状になっている方が以前より増えてきているみたいです。
Sさんの場合以前まで声を使いまくっていた状態から転職を境に出さなくなったというのが声が出しにくくなった原因だと思われるのですが、長い期間あまりに声をしっかり出すということが出来ていないと徐々に声帯が痩せるということも十分ありえます。
声を出してはいるけどしっかりした「地声/チェストボイス」が出てない場合
以前からいくつか記事にしていますが、披裂筋群や声帯筋など声帯を閉じる・緊張させる系の筋肉を使えていない発声を長く続けていてもこの『声帯萎縮の一歩手前』のような状態になります。
チェストボイスを出す時の正常な筋肉の動きが上で書いた筋肉群の働きなので、これらが働いていないと声帯を閉じるというアクションが十分に出来ず息漏れ傾向の声になります。
レッスンにも時々こういった症状の方が来られますが、大抵喋り声の段階できちんと声門閉鎖が出来ておらず要はチェストボイスが出ていない状態になっています。
これが長く続いてしまうとチェストボイス系の筋肉が衰え、声は長い期間をかけて段々段々出なくなっていきます。
『声帯萎縮の手前』に有効なトレーニング
身体の反射を使うのが分かりやすいです
重たいものを持つ時やいきむ時声帯は勝手にしっかりと閉じます。
Sさんとのレッスンで実際にやったのは壁に手を付きそれを思いっきり押しながら声を出したり、片手で持つにはちょっと重いかな?ぐらいのダンベルを持ち上げる瞬間に声を出すなどです。
上で書いたような症状の場合いくら「しっかりチェストボイス出しましょう!」って言っても「いやそれが出来たら苦労しねぇよ・・・」ってなるので(笑)身体の反射、つまりこうすると声帯は閉じざるをえないという状態を作ってあげるのが有効です。
しっかりとした声門閉鎖が起こっている状態が認識出来たら
身体の反射を使いがっつりチェストボイスが出始めたら、その時の喉や首周りの感覚に意識を集中してどういう感覚なのかにしっかりフォーカスしてもらいます。
そこからその感覚を感じれるように声を出す練習をします。
それまで身体が勝手にやってくれていた事を意識的に信号を送ってやろうとしているので、難易度はぐーんと上がります。
実際の方法は多少違えど通常のボイストレーニングのレッスンとやっている事自体は同じです。意識的にコントロール出来る範囲から始めて、徐々に無意識で出来るようになるというのはボイストレーニングの本質的な部分です。
声の不調はボイストレーナーよりもまずは病院へ
喉の状態をしっかり診断してからトレーニングです
ここまで散々いろいろ書いてきたんですが、私自身はただのボイストレーナーであり今回のSさんのケースは偶々思っていた症状と解決方法が合っていただけの話で、本来最初の行動としてはボイストレーナーにレッスンを頼むのではなく耳鼻咽喉科や言語聴覚士の診察を受けてください。
ここで書いたこともSさんの症状パターンであり、不調としては同じでも全く対処法や実際に起こっている事が全然違う方もいるかもしれません。
ちなみに今回のSさんも数回レッスンを受けて頂いた後病院の方で診察を受けたようですが、声帯自体には特に問題なしとの診断でした。
こうなって始めてボイストレーニングを開始するべきです。
おわりに
ということで今回は実際にレッスンを受けて頂いている方の不調のケースを紹介してみました。
今現在もSさんはレッスンを受けて頂いていて、もうすぐ1年くらいになりますが声も安定してきて普通に喋ったり歌ったり(チェストボイスのレンジであれば)は全く問題なく出来ています。
かなりしっかりと自主練習もして頂いていたみたいですが、一度痩せてしまったものを再度肉付けするのはやはりある程度時間がかかります。
ということで今回はここまで!
年の瀬で慌ただしくいろいろと身体も疲れて不調が出てくるかもしれませんが年末年始は病院もお休みなのでおかしいと思ったら出来るだけ早めに行きましょう!というか出来れば病院のお世話にならないようにしましょう(*´∀`*)